離れられない。
『沙希は東京というより、沙希にとっての東京の大部分を占めていた僕から離れたかったのだと思う。』
又吉直樹の小説「劇場」の一節。
この一節を読むと、いつも胸が苦しくなる。
僕はなぜ東京に出てきたんだろう。
ITエンジニアになりたかったから出てきたんだろうか。
だとしたら夢はもう叶えている。
では、その先は?
永田は劇作家になる夢を持って上京する。
そして劇団を立ち上げて、劇作家となる
同じく、夢を叶えている。
では、その先は?
沙希は女優を目指して上京し、服飾学校に通う。
しかし、女優は諦めて永田を夢を応援する。
他人の夢を自分に照らし合わせて夢を追っている。
築き上げたものはなかなか壊せない。
ほんの一瞬で崩れ去ってしまう事を分かっているからこそ、その勇気が出ない。
壊す勇気が出ないから笑うし取り繕う。
だからこそ、密になり、時が過ぎ、離れられなくなる。
自分にすがって、東京にすがって、沙希にすがって。
誰からも、どこからも、何からも、離れられない。
「お前さ、自分のこと才能があるって思う?」
「じゃあさ、人から才能があるって思われてないことには気づいてる?」
「沙希ちゃんにだけはそう思われたくないんだよな。お前は自分が好きだからやめられないんだよな。」
ちょっとだけ「劇場」のネタバレ含んでしまいました、すみません。
好きな作品で、自分と重なる部分が多くて、最近ちょっと考え事が多いので、紹介したくて。