『一般気象学』から学ぶ「降水過程」と「雲の分類」について
前回に続き一般気象学のまとめ。
前回は「どのように地球大気は運動しているのか」についてまとめたが、
今回は「どのような大気運動により雲が形成されて降水に至るのか」についてまとめていく。
😶前提知識
降水過程と雲の分類を学ぶにあたり、まず重要になってくるのは【物質の相変化】である。
- 物質は「気体」「液体」「固体」の3つの状態を持つ(厳密には「プラズマ」もあるがここでは扱わない)
- H2Oの場合「気体=水蒸気」「液体=水」「固体=氷」となる
- 温度の変化に伴って、この状態が変化する事を『相変化』という
行→列 | 気体 | 液体 | 固体 |
---|---|---|---|
気体 | x | 凝結 | 昇華 |
液体 | 蒸発 | x | 凝固 |
固体 | 昇華 | 融解 | x |
次に、どんな大気の動きにより雲が形成されるのかを記載する。
- 地上から水蒸気が持ち上がって、乾燥断熱減率により温度が下がる
- LCL(持上凝結高度)まで達して、やがて飽和し、雲が形成され始める(雲底高度)
- 更に水蒸気が持ち上げられて、湿潤断熱減率により温度が下がる
- LFC(自由対流高度)まで達して、周辺と温度が同じになる(雲頂高度)
つまり、「地上に存在した気体が、上昇して温度が下がるにつれて液体・固体となり、雲が形成される」という事になる。
さて、こうして形成された雲で何が起きる事で降水するのだろうか。
☔降水過程
降水過程を学ぶにあたっての流れは、概ね以下の通り。
- 上昇過程:水蒸気を含む大気の上昇
- 凝結過程:水蒸気の凝結による雲粒の形成
- 併合過程:雲粒の併合による雨粒・氷晶の形成
- 降水過程:雨粒・氷晶の降水
✔上昇過程
降水するためには、まずは上昇しないといけない。本項ではどのように空気塊が上昇していくのかを記載する。
- 以前のエントリーの「地球の成り立ち」で記載した通り、地球大気には水蒸気を含む空気塊が存在する
- 空気塊は、太陽日射などで暖められると密度が小さくなり、密度が小さくなると上昇を始める
- もしくは、空気塊は上昇気流により上昇する
- 以前のエントリーの「大気の鉛直構造」で記載した『対流圏』では、高度が上がるにつれて気圧が下がる。(約5km上昇するごとに気圧は半減する。地上が約1013hPaなので地上5km付近は約540hPa、地上10km付近は更に半分の約250hPa)https://news.yahoo.co.jp/byline/nyomurayo/20170112-00066487/
- 断熱的に上昇する空気塊は、周囲の気圧が低くなると断熱膨張を始める
- 断熱膨張は、自身の内部エネルギーを消費し、自身の温度を下げていく
- この時の温度が下がる割合を「乾燥断熱減率」で表す。(断熱的に1km上昇すると温度は約10K下がる)
✔凝結過程
上昇した水蒸気が、どのようにして凝結・昇華するのかを記載する。
不純物を含まない空気
- 空気塊の温度を下がっていくと、その温度に応じて飽和水蒸気圧も下がる
- 飽和水蒸気圧が下がると、相対湿度が増加し、遂に100%に達する
- 更に温度を下げていくと、余分な水蒸気は過飽和状態となり凝結する
- 氷点以上の場合は凝結核となり、-33度~-41度になると自発的に凍結し氷晶核(*1)となる
・・・・・と、ここまでは塵やほこりなどを含まない「不純物を含まない空気」の話。 「不純物を含まない空気」の場合、過飽和度が高くなければ平衡状態として存在できず、水の表面張力が邪魔をしてなかなか水滴が作られない。 (自然界において、水分子が偶然の衝突を繰り返して半径0.1μmの水滴を作り出す確率は極めて低い)
エアロゾル
*1: 氷晶核
氷晶核の種類は、以下の通り。
名称 | 説明 |
---|---|
昇華核 | 水蒸気が直接昇華した核 |
凍結核 | 水蒸気が一旦過冷却の微水滴になり凍結した核 |
凝結凍結核 | 凝結核+凍結核 |
接触凍結核 | 過冷却の水滴に衝突し、その衝撃で凍結させる核 |
エアロゾルが氷晶核として働く温度は、以下の通り。 |エアロゾル|温度| |:--|:--| |ヨウ化銀|-4度| |カオリナイト|-9度| |火山灰|-13度| |黄砂|-12~-15度|
✔併合過程
凝結・昇華した核が、どのようにして大きく重く成長していくのかを記載する。
雨粒の成長
- 雲粒は0.01mm程度だが、雨粒は1mm程度であるため、容積としては約100万倍となる
- 雨粒は地球引力により落下する
- 落下速度は、「物体が動く重力」と「逆方向に働く抵抗力」で釣り合い、『終端速度』として一定となる
- 大きな水滴は小さな水滴より落下速度が大きく、大きな水滴が小さな水滴と衝突して、併合し、大きくなる
- 大きな水滴は表面張力が弱くなるため、小さな水滴に当たると分裂する傾向にある。そのため、8mm以上の水滴は観測されない
氷粒子の成長
以下3つの異なる過程により成長する。
水蒸気の昇華凝結
- 水蒸気は大気中を氷晶に向かって拡散し、氷晶に直接くっついて(昇華して)氷晶を成長させる
- 氷粒は様々な形(*1)をしていて、必ずしも球体ではなく複雑になる
- 過冷却雲中に生成した氷粒子は過飽和状態にあるため、水滴の凝結過程のよりもずっと速く成長する
*1: 晶癖
雪の結晶は「細長く伸びた柱状」「薄く広がった板状」に分類され、これを『晶癖』と呼ぶ。 どのような晶癖になるかは、その結晶が成長している時の「温度×過飽和度」による。
- 0~-4度:板状
- -4~-10度:柱状
- -10~-22度:板状(過飽和度が増すにつれ角柱→骸晶厚角板→扇形角板となる)
- -22度~:柱状
凝集
- 氷粒子の落下速度が異なる事により、衝突し、付着して、氷粒子の質量が増加する事がある。
- 昇華凝結で成長した雪結晶同士が衝突してくっつきあったものを「雪片」と呼ぶ。
- 温度が高くなるにつれて付着しあう割合も高くなるため、-5度付近では大きな雪片(ぼたん雪)も観測される。
過冷却雲粒の補足(ライミング)
✔降水過程
本エントリーの上昇過程で記載した通り、上昇気流があるため水滴・氷晶はなかなか落下してこない。 上昇気流を上回る落下速度を持っていると、地上に落下してくる。
冷たい雨
- 上空の雲の中で成長した氷粒子(あられや雪片など)は、氷点より高い温度の空気中を落下してくる途中で融解する(流れ星が大気圏で消滅するように)
- 氷粒子が融解して雨粒となった状態で地上に降ってくる状態を「冷たい雨」という。(中緯度帯の日本においては約80%が冷たい雨と言われている)
- 融解速度は、粒子の「顕熱(周辺空気から熱伝導で受け取る熱)」と「潜熱(昇華蒸発する際に粒子から奪う熱)」の大小関係により決まる。
- 前者が大きければ融解して雨粒となり、後者が大きければ融解せずあられや雪片のまま落下する。(空気が乾燥していると後者が優勢)
暖かい雨
氷粒子が融解する事による降水ではなく、凝結した雲粒が、併合して雨粒となり、そのまま降水してくる雨を「暖かい雨」という。
☁雲の分類
✔基本4種
まず、国際雲分類表から、基本4種に分けられる。
日本語名 | ラテン語名 | 説明 |
---|---|---|
積雲 | Cumulus | 盛り上がったもの、積み重なったもの |
層雲 | Straus | 層状をしている |
巻雲 | Cirrus | 髪の毛の一部 |
乱雲 | Nimbus | 降水を伴う |
✔運形10種
次に、基本4種を組合わせて、主に雲形10種に分けられる。
大分類 | 中分類 | 名称 | 記号 | 高度 | 温度 |
---|---|---|---|---|---|
層状雲 | 上層雲 | 巻雲 | Ci | 5~13㎞ | -25度~ |
層状雲 | 上層雲 | 巻積雲 | Cc | 5~13㎞ | -25度~ |
層状雲 | 上層雲 | 巻層雲 | Cs | 5~13㎞ | -25度~ |
層状雲 | 中層雲 | 高積雲 | As | 2~7㎞(上層に達する事もある) | 0~-25度 |
層状雲 | 中層雲 | 高層雲 | Ac | 2~7㎞ | 0~-25度 |
層状雲 | 下層雲 | 層雲 | Sc | ~2㎞ | ~-5度 |
層状雲 | 下層雲 | 層積雲 | St | ~2㎞ | ~-5度 |
層状雲 | 下層雲 | 乱層雲 | Ns | 雲底は下層だが、雲頂は中~上層に達する | ? |
対流雲 | - | 積雲 | Cu | 0.6~6km | ? |
対流雲 | - | 積乱雲 | Cb | 雲底は下層だが、雲頂は上層に達する | 雲頂は-50度 |
✔霧の分類
気象学における霧の定義は「直径数10μmの水滴・氷晶が大気中に浮かんでいる事が原因となり、地表面付近で水平方向の視程が1km未満になる現象」
霧は地上に発生した雲であり、以下に分類される。
- 放射霧
- 赤外放射により地表が冷える事で発生する霧
- 例:晴れた夜の明け方など
- 移流霧
- 蒸気霧
- 水蒸気を含んだ暖かい空気が、周りの冷たい空気と混同して飽和に達した霧
- 例:寒い日に吐く息、温泉の湯けむり
- 前線霧
- 暖かい水滴が蒸発し、空気が過飽和となり、余分な水蒸気が霧粒となる
- 例:閉めきった風呂場でのシャワー
- 上昇霧
- 空気が上昇し、断熱膨張のため空気の温度が下がし、露点に達する事で生じる
- 例:山腹に沿って上昇する雲。山腹に住む人にとっては霧だが、地上に住む人にとっては雲。
😶まとめ
前回のエントリーでは以下のような事を記載したが、これらの意味が本エントリーにより理解できたかと思う。
- 積乱雲は、成長期は上昇流で、成熟期は上昇流と下降流が共存し、衰退期は上昇流が消滅する
- 積乱雲は、雲粒・雨粒・氷粒子ができている
✔次回以降の予定
一般気象学をまとめ始めて今回で第4回になる。 最初に「まとめる予定だ」と話した内容について、もう一度整理する。
- 力学
- 熱力学
地球大気の鉛直構造(第1回)地球大気の熱収支(第2回)地球大気の運動(第3回)- 地球大気の観測
降水過程(第4回)- 気象予報
- さまざまな気象現象
- さまざまな気象災害
- さまざまな気象情報
次回は「地球大気の観測」あたりについて調べようかな。
力学と熱力学は、もう少し深掘りしてからまとめていきたい・・・難しい・・・・・。