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努力と怠惰の狭間

『気象予報士かんたん合格テキスト<学科専門知識編>』から学ぶ「さまざまな気象予報」について

これまでは、熱収支や降水過程などの大気現象や、そこで観測される気象要素についてまとめてきたが、今回は『観測した気象要素をどのようにして予報に繋げていくか』についてまとめていく。

使用したテキストとしては、前回同様『気象予報士かんたん合格テキスト<学科専門知識編>』です。

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🔢数値予報

ある時刻の大気の状態(風向・風速・気圧・温度・湿度など)を測り、大気の状態の変化を「運動方程式」「熱力学方程式」などから算出する。

  • これらの理論式の多くが偏微分方程式の形なので、生の気象データだと扱いづらいらしい
    • →格子点を設ける事で、数値を扱いやすくしている
  • 局地的現象には計算が追いつかなったが、以下がきっかけとなり、短時間で莫大なデータの解析や計算ができるようになった

✓数値予報の流れ(解析予報サイクル)

  1. ランダムに存在する観測地点
    • アメダスの場合は約17km間隔
    • その他高層気象や衛星なども使用しているはず
  2. 水平格子を作る
    • LFMの場合、2km間隔
    • MSMの場合、5km間隔
    • GSMの場合、20km間隔
    • 週間EPSの場合、40km間隔
    • 台風EPSの場合、40km間隔
  3. 格子点上の値を決める(=客観解析)
    • 「第一推定値(前回の予報結果)」を、格子点周辺の「観測値」に補正して、格子点上の値を決定
    • 計算には「四次元変分法」を用いる
  4. 必要な値を初期化
    • 実際の大気とは異なる「慣性重力波」がノイズとして現れるため、観測値と予測値が一致したとしても必ず行う
  5. 将来の予想を数値予報モデルで計算
    • LFMの場合、10時間先
    • MSMの場合、39時間先&51時間先
    • GSMの場合、5.5日先&11日先
  6. 1に戻る
    • LFMの場合、毎時
    • MSMの場合、39時間先は3時間毎、51時間先は12時間毎
    • GSMの場合、5.5日先は12時間毎、11日先は12時間毎

観測データについては、品質管理を行った上で、数値予報に用いられている。 (人的ミスによる異常値やあらかじめ設定された閾値超えなどを検知し、乖離が激しい場合には観測値を使用しないなどする)

✓数値予報モデル&予報目的

局地モデル(LFM:Local Forecast Model)

  • 目的
    • 局地予報
    • 防災気象情報
    • 飛行場予報
    • 降灰予報

メソモデル(MSM:Meso-Scale Model)

  • 目的
    • 防災気象情報
    • 航空気象情報

全球モデル(GSM:Global Spectral Model)

  • 目的
    • 短期予報
    • 量的予報
    • 府県天気予報
    • 台風予報
    • 週間天気予報

台風アンサンブル予報モデル(台風EPS:Ensemble Prediction System)

  • 目的
    • 台風進路予報

週間アンサンブル予報モデル(週間EPS:Ensemble Prediction System)

✓数値予報の短所

  • スピンアップ
  • 対流性の降水量の予報精度
  • タイムステップの制約
  • 水蒸気が大きく関与する予報計算の誤差
  • 擾乱のスケールが小さな場合の予報精度と期間
  • 予報期間の限界
  • 予報精度の限界
  • 積雲対流規模の鉛直流の計算精度
  • 予報値の精度

✓予報誤差の種類と要因

  • 地形データの粗さ
  • 大気の運動の持つカオス性
  • 系統的誤差

✓天気予報ガイダンス

予報予測値を必要な天気や要素に翻訳したり、地形により生じる系統的誤差を除去などする工程。

ガイダンスの作成手法としては、以下の通り。

名称 説明
MOS手法(Model Output Statistics) 説明変数(過去の数値予報結果の大気状態)と目的変数(雨量などの観測値)との「統計的関係式」を求めておく。これを数値予報結果に適用して予報資料を作成。
PPM手法(Perfect Prognosis Method) 説明変数(実際の大気状態)と目的変数(雨量などの観測値)との「統計的関係式」を求めておく。これを数値予報結果に適用して予報資料を作成。
カルマンフィルター(KLM) "事前に求めておいた予測式の係数"を"直近の観測値"を用いて修正量を最適に補正する
ニューラルネットワーク(NRN) 人工ニューロンをネットワーク化し、その結合の強さを学習させて予測誤差を最小化する

ガイダンスの種類としては、以下の通り。

名称 説明
降水確率ガイダンス 予報対象領域内での地点確率の平均値
発雷確率ガイダンス 予報対象領域内の少なくとも1地点で発雷する確率
降水量ガイダンス 予報対象領域内で所定時間内に降る平均降水量
大雨確率ガイダンス 予報対象領域内の少なくとも1地点で3時間のうちに大雨が降る確率(暖候期は30mm以上、寒候期は20mm以上)
高潮ガイダンス 予報中心円とその周辺を台風が進む場合の、各々1時間ごとの潮位・潮位偏差・予報期間内の最高潮位・起時

気象要素とガイダンスの代表的な組合せは、以下の通り。

気象要素 ガイダンス手法 対象領域
天気 NRN 20km格子
降水量 KLM 20km格子
降水確率 KLM 20km格子
気温 KLM アメダス地点
KLM アメダス地点
湿度 NRN 気象官署
大雨・発雷 NRN 二次細分区域



🗣️短時間予報・短期予報・中期予報

✓ナウキャスト(~1時間)

  • 降水ナウキャスト
    • 1km間隔で、5分ごとに、1時間先まで予報
    • 降水域の移動速度がその後も変化しない事を仮定して予報
      • 過去1時間程度の移動量や、高層観測から求めた風により、移動予報を行う
    • 降水域の地形性効果による盛衰傾向を考慮して予報
      • レーダーによるエコー頂から、雲の鉛直方向の発達度を解析可能(背の低い雨雲や雪雲は、高い山岳を超えられない)
  • 雷ナウキャスト
    • 1km間隔で、10分ごとに、1時間先まで予報
    • 雲頂温度が-20度以下になると雷が発生しやすくなる
    • 4段階の活動状況
      • 1)雷の可能性あり:現在雷は発生していないが今後雷の恐れあり。雲頂温度が-10度以下。
      • 2)雷あり:電光や雷鳴が確認できる。現在発雷はしてないが間もなく落雷の起きる可能性あり。雲頂温度が-20度以下。
      • 3)やや激しい雷が発生:落雷が発生している。
      • 4)激しい雷が発生:落雷が多数発生している。
    • 2種類の放電
      • 雲放電:雲内のみでの放電。
      • 対地放電:雲と地上間における放電。落雷。
  • 竜巻発生確度ナウキャスト
    • 10km間隔で、10分ごとに、1時間先まで予報
    • 予測対象
    • 水平スケール
    • 最大瞬間風速
    • 2階級の予測表示
      • 発生確度1(的中率1~5%、捕捉率60~70%):見逃す事例が少なくなるような調整をした予測
      • 発生確度2(的中率5~10%、捕捉率20~30%):今まさに激しい突風が起きているか、すぐにでも起きるおそれがある領域を重視した予測

✓短時間予報(目先数時間)

  • 降水短時間予報
    • 1km間隔で、30分ごとに、6時間先まで予報
    • 予報の初期値には、解析雨量を用いる
    • 降水域の移動は、パターンマッチング法や下層の風予想を用いる
    • 地形性効果による降水の盛衰も考慮する
    • 補外予報(重要)
      • 前半3時間は補外予報の比率が高く、後半3時間はメソモデル予報の比率を高くしている

✓短期予報(3~48時間)

  • 府県天気予報や地方天気予報などがある
  • 注意報や警報も短期予報に含まれる

✓中期予報・週間予報(~7日先)

  • 「全般」「地方」「府県」の形式で毎日発表
  • 予報の信頼度は、たまに後半でよくなる事がある(低気圧・高気圧の移動による位相のズレ)

✓降水確率予報

  • 予報期間中に1mm以上の降水がある確率を予報
  • 0%~100%の11段階で発表
  • "確率"の基礎知識が重要
    • 0~6時で20%、6~12時で20%、12~18時で20%、18~24時で20%の場合(20%=1/5)
      • 1 - ( 1 - 1/5 )4 ≒ 0.59 = 59%/日



👨‍👩‍👧‍👦アンサンブル予報

単独予報では、以下を要因とした予報誤差が生じやすい。

  • 初期値の不確実性
  • 予報モデルの不完全性
  • 大気が持つカオス性の概念
  • 初期値の相違によるバタフライ効果

そこで、観測誤差くらいの僅かな違いを与えた初期値を多数作り、予報モデルでそれぞれの初期値について予報を行う。 これを「アンサンブル予報」と呼ぶ。

  • メリット
    • 予報時間が長くなるほどばらつき(=スプレッド)が大きくなるが、統計的に考えて、外れ値を除去し、平均を取れば、誤差を縮小できる
  • デメリット
    • 各メンバーでも同種の系統的誤差を含むため、平均から予報値を算出しても、系統的誤差は小さくできない

✓週間アンサンブル

週間予報を行うために利用される。 全球モデルの解析値で初期値を作成し、総観スケール現象以上の大気現象の動向を解析する。

仕様は以下の通り。

項目 形式
水平分解能 全球40km
鉛直層数 100層。最上層は0.01hPa
初期値作成 00UTC&12UTC
予報時間 216時間&432時間
メンバー数 27メンバー

週間アンサンブルに関する用語については、以下の通り。

  • コントロールラン
    • 初期値に人工的な誤差を一切与えずに予報するメンバー。
  • 摂動ラン
    • 初期値に人工的な誤差(観測や解析の誤差程度)を与えて予報するメンバー。
  • メンバー数
    • コントロールラン+その他摂動ランで予報を行う。週間アンサンブルの場合は27メンバー。
  • クラスター平均
    • 各メンバーの予報結果を類似パターンで5種に分類し、平均化して予報を表示。
  • センタークラスター平均
    • 各メンバーの予報結果の平均値を基準として、それに近い6メンバーを平均した予報を表示。
  • 負・正偏差
    • 平年値より何度高いか、平年値より何度低いかを示す(気温の場合)

✓季節予報

予報期間が1か月以上のものを「季節予報」と呼ぶ。

以下2点の手法を用いて予報する。

  • 力学的数値予報
    • 本エントリーの最初に書いた「解析予報サイクル」の通り
  • 統計的予報
    • 予報期間が長くなると、初期条件(予報を始める時刻の大気状態)よりも境界条件(海面水温や陸面水分、温度や積雪などの状態)の方が、予報に大きく関与する
    • 海面水温は、平年値との偏差や分布が変わらない事を前提とする
    • 陸面の積雪や土壌水分などは、観測値などから推定した値を初期値として与える

季節予報に関する用語は、以下の通り。

  • 平年値
    • 過去30年間の平均値
    • サンプリングする年度は10年ごとに更新(2023年の場合:1991~2020年)
  • 気候的出現率
    • 過去30年間のデータを昇順で並べ、1~10番目は「低い」、11~20番目は「平年並」、21~30番目は「高い」
    • 夏(6~8月)の場合、1~10番目は「冷夏」、21~30番目は「猛暑」
    • 冬(12~2月)の場合、1~10番目は「厳冬」、21~30番目は「暖冬」

1ヶ月予報(力学的数値予報)

1ヶ月アンサンブル予報モデルで予報が作成される。 気候的出現率は10%単位で発表される(予報は1%単位で行われている)。

仕様は以下の通り。

項目 形式
水平分解能 全球55km
初期値作成 週2回
予報時間 1ヶ月
予報目的 1か月予報、異常天候早期警戒情報

1ヶ月予報に関する用語は、以下の通り。

  • 東西指数
    • 北緯40度と北緯60度の等圧面高度を、東経90度~170度の間の平均を取って比較した高度差
    • 東西指数が大きい
      • =南北の高度差が大きい
      • =偏西風が強い
      • =天気は周期的に変化する
    • 東西指数が小さい
      • =南北の高度差が小さい
      • =偏西風が弱い
      • =偏西風の蛇行が小さい
      • =天気が偏りやすい(悪天と好天のどちらかが続く。寒暖についても同様。)
  • 高度場偏差
    • 正偏差
      • 500hPaの高度が平年より高い
      • トラフ場になる事が少ない
      • =寒気の流入が少ない
    • 負偏差
      • 500hPaの高度が平年より低い
      • トラフ場になりやすい
      • =北から寒気が流入しやすい
    • 西谷
      • 日本付近から見て西側にトラフがある
      • =日本付近の南西の風が卓越しやすくなる
      • =日本付近に南から暖湿流が入りやすい
      • =低気圧や前線が発生しやすい
    • 東谷
      • 日本付近から見て東側にトラフがある
      • =日本付近の北西の風が卓越しやすくなる
      • =日本付近に南から暖湿流が入りにくい
      • =低気圧や前線が発生しづらい

3ヶ月予報(力学的数値予報+統計的予報)

毎月予報計算が行われる。

予報する出現確率は、以下の通り。

  • 3ヶ月平均気温
  • 3ヶ月合計降水量
  • 月別平均気温
  • 合計降水量
  • 3ヶ月合計降雪量(日本海側)

暖候期予報(統計的予報)

6~8月を予報し、2月末に発表

予報する出現確率は、以下の通り。

  • 夏(6~8月)の平均気温
  • 合計降水量
  • 梅雨時期(6~7月、沖縄・奄美は5~6月)の合計降水量

寒候期予報(統計的予報)

12~2月を予報し、9月末に発表

予報する出現確率は、以下の通り。

  • 冬(12~2月)の平均気温
  • 合計降水量
  • 合計降雪量(日本海側)



📈予報精度の評価法

✓評価法

以下の対応分割表を用いる。

実況\予報 現象あり 現象なし 合計
現象あり A B G
現象なし C D H
合計 E F I

上記の対応分割表に加え、以下の計算式も用いる。

S=(E*F*G*H)/I

上記の対応分割表を基に、以下の評価法で計算する。

カテゴリー予報 注意報・警報
適中率 (A+D) / (A+B+C+D) A / E
空振り率 C / (A+B+C+D) C / E
見逃し率 B / (A+B+C+D) B / G
捕捉率 A / B  
スレットスコア A / (A+B+C)  
バイアススコア (A+C) / (A+B)  
ブライススコア -  
スキルスコア ((A+D)-S) / (I-S)  

それぞれの用語の意味は、以下の通り。

  • 捕捉率
    • 予報で「現象あり」とした中で、どれくらい実際に発生した現象が含まれていたかの比率
  • スレットスコア
    • ごく稀にしか起きないような現象の適中率評価
    • 稀にしか発生しないので、予報の段階で「現象なし」を除外している
  • バイアススコア
    • 予報で「現象あり」の回数を、実況で「現象あり」の回数で割ったスコア
  • ブライススコア
    • 0で完全予報、1で最悪予報
  • スキルスコア
    • 予報の技術的な難易度を除外した評価法

✓誤差

  • 平均誤差(ME:Mean Error)
    • 全データの「正解値-予測値」の平均
  • 2乗平均平方根誤差(RMSE:Root Mean Squared Error)
    • 全データの「正解値-予測値」の2乗の平均を計算し、最後に平方根を取ったもの
    • (平均誤差では、プラス誤差とマイナス誤差が相殺される欠点があるため、これを捕捉したもの)

✓持続予報

予報する前日の実況値を、翌日の予報値とする。

✓気候値予報

気候値や現象が発生する例年の発生率を、予報期間に適用した予報。



😶まとめ

鉛直構造とか降水過程についてはストーリー性を持たせやすかったけど、ここまで来ると暗記要素が多くなってきてる感じがする。 実際、まとめきれていない単語もたくさんある・・・。


けど、これで概ねまとめられたので、ようやく過去問題に入っていける!!!

流れとしては以下の通りにやっていく予定。僕自身の勉強法というか、脳への定着の仕方は、これが合ってる気がする。

  • 過去問を解いて、ちゃんと間違える
  • 解説資料を読みながら、それをまとめていく
  • 過去10回分が終わったら、「過去問でまとめた内容」と「本ブログにまとめた内容」を、ノートに書き起こしていく
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https://gihyo.jp/book/2014/978-4-7741-6476-2